死亡事故コラム

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【刑事裁判での交通死亡事故加害者の刑期は?】遺族専門弁護士の解説

2022.09.02

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民事裁判

交通事故で突然大切な人を失った。

その怒りや悲しみは、計り知れないものであると思います。

そのような辛い気持ちの中で、亡くなった方の無念を晴らすために前を向き、このページを訪れてくださりありがとうございます。

交通死亡事故の加害者は、慰謝料などの民事の損害賠償責任を負うとともに、懲役刑・禁錮刑・罰金刑などの刑事責任を負うことになります。

「お金の問題じゃないから被害者を返して欲しい」「命を奪ったのに死刑にならないのはおかしい」など、納得がいかない想いを抱えておられることは重々承知しております。

ですが、日本の法体系上、交通死亡事故の加害者は死刑にならないこと、不法行為による損害賠償は金銭で評価することになっていることも事実です。

そのような中で、私たち交通死亡事故被害者専門弁護士の役割は、刑事裁判に適切にご遺族の想いを反映し、民事裁判(又は示談交渉)において最大限の損害賠償金を獲得することだと思っております。

死亡事故の無料法律相談の流れはこちらのページをご覧ください。)

このページでは、刑事裁判に重点を置き、死亡事故を起こした加害者に対しどのような理由で、どのような判断が下されるのかを解説していきます。

このページの記載が、ご遺族の方の一助になることを願っています。

 

目次
  1. 危険運転致死罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条,第3条)
    1. 危険運転致死罪の法定刑の規定はどうなっているか?
    2. 危険運転致死罪の弁護士による条文解説
    3. 危険運転致死罪の刑期は懲役6年~9年が多い
    4. 加害者にどんな事情があると罪が重くなる?
    5. 加害者にどんな事情があると罪が軽くなる?
    6. 被害者が若いと加害者の刑期は長くなる?
    7. 遺族の処罰感情が強いと加害者の刑期は長くなる?
    8. 被害者が加害者の車に同乗していた事例では刑期は短くなる?
  2. 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第4条)
    1. 死亡事故の後に大量の水を飲んだりして飲酒運転の事実を隠蔽しようとしたら何罪になるか?
    2. 死亡事故を起こした後に大量の水を飲んだりして飲酒運転の事実を隠蔽しようとした加害者の刑期はどうなるか?
  3. 過失運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)
    1. 過失運転致死罪の法定刑はどうなっているか?
    2. 過失運転致死罪では懲役刑・禁錮刑・罰金刑のどれが選択されるか?
    3. 拘禁刑の創設(懲役刑と禁錮刑は廃止されます)
    4. 過失運転致死罪では悪質性が低い方が損?
    5. 加害者にどんな事情があると刑期が長くなる?
    6. 加害者にどんな事情があると執行猶予が付きやすくなる?
    7. 被害者が複数だと実刑判決になりやすい?
    8. 被害者が若いと実刑判決になりやすい?
    9. 被害者にも過失があると執行猶予がつきやすい?
    10. 被害者遺族に厳しい処罰感情がないと執行猶予がつきやすい?

危険運転致死罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条,第3条)

死亡事故

危険運転致死罪の法定刑の規定はどうなっているか?

第2条:懲役1年~懲役20年

次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。

1号「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

2号「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

3号「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為

4号「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

5号「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

6号「通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

第3条:懲役1か月~懲役15年

 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は12年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する。
2 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。

危険運転致死罪の弁護士による条文解説

第2条と第3条の法定刑の違い

危険運転致死罪を規定した、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下法律名省略)第2条及び第3条では、該当する類型と、それらの法定刑が規定されています。
第2条では、「人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。」と規定されていますが、有期懲役の上限は20年とされていますので(刑法第12条1項)、第2条で規定される法定刑というのは、懲役1年以上20年以下ということになります。

第3条では「人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する。」と規定されていますが、有期懲役は1か月~とされていますので(刑法第12条1項)、第3条で規定される法定刑というのは、懲役1か月以上15年以下ということになります。

従いまして、第2条と第3条とを比較すると、第2条の方が重い法定刑が規定されていることになります。
これは、行為の凶悪性が第2条の方が大きいためです。

例えば、第2条1号「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」と、第3条1項「アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り」の違いは、運転を開始した時点の酩酊や錯乱の程度によります。

運転を開始した時点で、正常な運転が困難な状態であることが分かっていたにもかかわらず運転し、結果として人を死亡させたような場合、「酒に酔っていて正常な運転ができる状態ではないけど運転してしまえ」「薬の作用で正常な運転ができる状態ではないけど運転してしまえ」という身勝手な気持ちで運転を開始している点で、極めて悪質と評価できます。

他方で、第3条1項というのは、運転を開始した時点では正常に運転できていたという点で第2条1号のケースと異なります。

薬の服用後に運転を開始したような事例において、運転を開始するときは正常な運転ができていたが、その後薬の作用で正常な運転ができなくなってしまったようなケースです。

このケースですと、「薬を飲んだから後で正常な運転ができなくなるかもしれないけど運転してしまえ」という点に非難が求められます。

第2条1号の「薬の作用で正常な運転ができる状態ではないけど運転してしまえ」という点と、第3条1項の「薬を飲んだから後で正常な運転ができなくなるかもしれないけど運転してしまえ」という点について、この法律は前者の方が悪質だと捉えているので、第2条の法定刑の方が重くなっています。

下手くそな運転は危険運転になる?

第2条3号「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」についてですが、これは単に運転技能が下手な人による死亡事故を危険運転致死罪として扱っているわけではありません。

また、単に無免許運転であることを意味しているわけではありません。

無免許運転の場合は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第6条(無免許運転による加重罪)で別に規定があります。

例えば免許が取り消しになっている間に危険運転を起こしたような人は、無免許でありますが、一度免許を交付されていますので、進行を制御する技能はあったと言えるかもしれません。

ですので規定が別になっています。第2条3号にいう「その進行を制御する技能を有しない」というのは、そもそも教習所で教習を受けたことすらなく、自動車の操作が極めて未熟であるような場合が該当することになります。

無免許であるかどうかという線引きではなく、事故態様や本人の技能の程度、当時の道路状況等様々な要因で判断されることになります。

危険運転致死罪の刑期は懲役6年~9年が多い

我が国の法体系上は、先例拘束性の原則と呼ばれる、同類系の事案については、下級裁判所がより上級の裁判所の判例に拘束されるという原則はなく、全ての裁判所が独自の判断を下すことが可能です。

しかしながら、刑事裁判実務上は、同類系の事案で判断が極端に異なることを防ぎ、司法判断の統一性を守るために、判例を重ねていくうちに段々と基準が出来ていくことが多くなっていますので、最新の判例の方がより明確に基準化されているといえます。

たとえば、過失運転致死罪の判例ですが、神戸地方裁判所尼崎支部令和3年11月22日判決では、「同種ないし類似事案においてこれまで蓄積された量刑傾向との衝平を加味」し、量刑を決定するといった判断がされています。

危険運転致死罪の量刑においても同様に、判例が積み重ねられていく中で、一定の基準ができています。

小杉法律事務所において、危険運転致死罪の令和3年10月以降の比較的新しい裁判例を調査し、危険運転致死罪の量刑傾向を下記のとおりまとめております。あくまで目安にはなりますが、参考にご覧ください。

  • 危険運転致死罪では、非難の程度が、重程度・中程度・軽程度の3つに分類されている
  • 死亡者1名の危険運転致死の場合、概ね懲役6年~懲役9年の刑期が多い(中程度)
  • 重程度の事例では懲役9年を超えることもある
  • 軽程度の事例では懲役6年を下回ることがある

加害者にどんな事情があると罪が重くなる?

加害者に下記のような事情があると、重程度の危険運転致死罪として懲役9年以上の刑期となることがあります。

  • 飲酒量が大量
  • 大幅な速度超過
  • ひき逃げ
  • 同種の前科がある
  • 職業運転手
  • 飲酒運転を注意されていた
  • 事故後の態度が悪い

上記に関する最近の裁判例を見ていきましょう。

飲酒量が大量(裁判例:懲役10年)

裁判例を見ていくと、飲酒量が大量の事例では、危険運転致死罪の一般的な量刑傾向である懲役6年~9年よりも、刑期が長くなる傾向がみてとれます。

例えば、鹿児島地方裁判所令和3年11月16日判決では、罪を認めて反省していた・遺族に金銭的な補償がなされたといった加害者に有利な事情があったものの、懲役10年の判決が下されています(検察官の求刑は12年)。

大幅な速度超過(裁判例:懲役9年)

裁判例を見ていくと、大幅な速度超過の事例では、懲役6年~9年という危険運転致死罪の一般的な量刑傾向の中で重い刑期とされる傾向がみてとれます。

例えば、鹿児島地方裁判所令和3年10月4日判決では、兄が更正支援の意向を示していた・任意保険により遺族に相応の損害賠償見込みといった加害者に有利な事情があったものの、懲役9年の判決が下されています(検察官の求刑は10年)。

また、福岡地方裁判所小倉支部令和4年3月14日判決も、法定速度を大幅に超過した事例において懲役9年の判決を下しています(検察官の求刑は13年)。

ひき逃げ(裁判例:懲役10年)

裁判例を見ていくと、ひき逃げ(被害者を救護せず+警察にも報告せず)の事例では、危険運転致死罪の一般的な量刑傾向である懲役6年~9年よりも、刑期が長くなる傾向がみてとれます。

例えば、静岡地方裁判所令和4年2月18日判決では、逃走の後自首している・反省と謝罪の言葉ありといったといった加害者に有利な事情があったものの、懲役10年の判決が下されています(検察官の求刑は12年)。

同種の前科がある(裁判例:懲役8年)

裁判例を見ていくと、以前にも同種の前科があった事例では、懲役6年~9年という危険運転致死罪の一般的な量刑傾向の中で重い刑期とされる傾向がみてとれます。

例えば、さいたま地方裁判所令和3年12月22日判決では、加害者が反省し謝罪もしている・遺族には保険金支払いの見込みありといった加害者に有利な事情があったものの、懲役8年の判決が下されています(検察官の求刑は9年)。

なお、福岡地方裁判所小倉支部令和4年3月14日判決では、同種前科があったという事実に加え、法定速度を大幅に超過した点が考慮されて懲役9年の判決が下されています(検察官の求刑は13年)。

職業運転手(裁判例:懲役9年)

裁判例を見ていくと、加害者が交通関係の仕事に従事していた(タクシー運転手など)という事例では、懲役6年~9年という危険運転致死罪の一般的な量刑傾向の中で重い刑期とされる傾向がみてとれます。

例えば、長野地方裁判所令和3年10月14日判決では、職業運転手の飲酒運転による死亡事故に対して、検察官の求刑どおりの判決が出されています(懲役9年)。

なお、大津地方裁判所令和3年10月15日判決では、判決により職業運転手であることが指摘されていますが、謝罪の手紙・花を手向ける・雇用主による監督・免許を再取得しないことを約束・前科なし・任意保険による金銭賠償見込みといった加害者に有利な事情が多くあったため、懲役7年にとどまっています(検察官の求刑は9年)。

また、金沢地方裁判所令和3年12月7日判決でも、交通関係の仕事に従事しているのであるから交通安全に対して高い意識を持つべきであったと判決で非難されていますが、遺族に対して7000万円の示談金が支払われたことや前科がないことなどが考慮されて、懲役6年にとどまっています(検察官の求刑は7年)。

職業運転手という事情は、量刑上考慮はされるものの、他の加害者に有利な事情によって厳罰を免れやすい事情と評価できるのかもしれません。

飲酒運転を注意されていた(裁判例:懲役9年~10年)

裁判例を見ていくと、周りから飲酒運転を注意されていたにもかかわらず飲酒運転をやめなかったような事例では、危険運転致死罪の一般的な量刑傾向である懲役6年~9年よりも、刑期が長くなる傾向がみてとれます。

例えば、青森地方裁判所令和3年12月6日判決では、父親が監督を誓っている・反省していて罪を素直に認めている・大学除籍などの社会的制裁を既に受けているといったといった加害者に有利な事情があったものの、検察官の求刑どおりの判決が下されています(懲役9年)。

また、鹿児島地方裁判所令和3年11月16日判決では、重度の酩酊という事情と相まって、懲役10年の判決が下されています(検察官の求刑は12年)。

事故後の態度が悪い(裁判例:懲役9年)

裁判例を見ていくと、死亡事故と向き合わず、責任を回避するような態度をみせる加害者には、懲役6年~9年という危険運転致死罪の一般的な量刑傾向の中で重い刑期とされる傾向がみてとれます。

例えば、長野地方裁判所令和3年10月14日判決では、供述態度に責任回避的な姿勢の見られた加害者に対し、検察官の求刑どおりの判決が出されています(懲役9年)。

ただし、この判決は、ひき逃げなどの他の事情もありますので、加害者の態度の悪さが求刑どおりの判決とする決定的事由になったわけではないと思われます。

また、てんかんの事例なので特殊ですが、福岡地方裁判所小倉支部令和4年3月2日判決では、責任回避的な態度をとる加害者に対し懲役4年の判決を下しています(検察官の求刑は5年)。

加害者の態度については、よほど悪い場合は量刑上加害者に不利に考慮することがあるといった程度であると考えられます。

他方で、後述のとおり、真摯に反省しているなど、事故後の態度が良い事例では、量刑上加害者に有利に考慮されるという傾向がみられます。

加害者にどんな事情があると罪が軽くなる?

加害者に下記のような事情があると、軽程度の危険運転致死罪として懲役6年以下の刑期となることがあります。

  • 前科なし
  • 反省・謝罪あり
  • 支援者・監督者あり
  • 遺族への損害賠償
  • 既に社会的制裁を受けている

上記に関する最近の裁判例を見ていきましょう。

前科なし(裁判例:懲役7年以下)

裁判例を見ていくと、加害者に前科がない事例では、懲役7年以下に収まる傾向がみてとれます。

例えば、加害者に前科の無い事例の裁判例を見ていくと、東京地方裁判所令和4年3月22日判決では懲役6年半(検察官の求刑は7年半)、高松地方裁判所令和4年3月17非判決では懲役7年(検察官の求刑は10年)、宮崎地方裁判所令和4年3月7日判決では懲役7年(検察官の求刑は10年)、福岡地方裁判所小倉支部令和4年3月2日判決では懲役4年(検察官の求刑は5年)といった結果になっています。

反省・謝罪あり(裁判例:懲役7年以下)

裁判例を見ていくと、加害者の反省・謝罪があることは、多くの裁判例において、量刑を軽くする事情として考慮に入れられています。

「未だ十分とは言えないまでも」等の言葉が用いられる裁判例も多く、遺族が納得できるような反省や謝罪までは要求しておらず、加害者なりの誠心誠意の反省・謝罪があれば足りると考えられているきらいがあります。

例えば、加害者に反省・謝罪のある裁判例を見ていくと、千葉地方裁判所令和4年2月22日判決では懲役6年(検察官の求刑は7年)、東京地方裁判所令和4年3月22日判決では懲役6年半(検察官の求刑は7年半)、宮崎地方裁判所令和4年3月7日判決では懲役7年(検察官の求刑は10年)といった結果になっていて、危険運転致死罪の量刑相場(懲役6年~9年)の下の方に位置することが分かります。

支援者・監督者あり(裁判例:検察官の求刑より下がりやすい)

刑事裁判では、被告人(加害者とされる者の刑事裁判での呼び名)の支援者・監督者として「情状証人」と呼ばれる人が登場することがあります。

被告人の親族や会社の上司が情状証人となることが多いです。

この情状証人が、被告人の社会復帰や更生を支えることを証言したり、今後このようなことが無いよう監督・支援することを法廷で証言した場合、裁判所は量刑を軽くする事情として考慮に入れられることが多いです。

例えば、情状証人が被告人の支援や監督を誓う旨の証言をした裁判例を見ていくと、東京地方裁判所令和4年3月22日判決では懲役6年半(検察官の求刑は7年半)という結果になっています。

なお、情状証人が被告人の支援や監督を誓う旨の証言をした裁判例であっても、宇都宮地方裁判所令和3年12月9日判決の懲役8年、さいたま地方裁判所令和3年12月2日判決の懲役8年、静岡地方裁判所令和4年2月18日判決の懲役10年など重い刑が科せられている事例もありますが、これらの事例は飲酒・ひき逃げ・同種前科ありなど加害者に不利に事情があった事例で、いずれも検察官の求刑より1~2年低い判決となっていることから、支援者や監督者がいることは有利な事情として考慮されるといって良いと思われます。

遺族への損害賠償(裁判例:検察官の求刑より下がりやすい)

遺族への損害賠償は、必ずと言っていいほど、加害者の量刑を軽くする事情として考慮に入れられます。

冒頭でも述べましたが、被害者・遺族の側からすればお金の問題ではないと考えるのが自然ですが、裁判所は相応の金銭による賠償があることを、加害者側に有利に考慮しているのが実情です。

実際に示談金や解決金が遺族に支払われていなくとも、加害者が任意保険に加入しているなど損害賠償の見込みがあるといった事情だけで、加害者に有利な事情として考慮されている傾向にあります。

反対に、加害者が任意保険に加入しておらず、損害賠償金支払いの見込みが乏しい場合には、量刑が重くされることがあります。

例えば、遺族への損害賠償の支払いがある/支払見込みがあるといった事例の裁判例を見ていくと、千葉地方裁判所令和4年2月22日判決では懲役6年(検察官の求刑は7年)、福岡地方裁判所小倉支部令和4年3月2日判決では懲役4年(検察官の求刑は5年)となっています。

なお、遺族への損害賠償が見込まれる事例であっても、宇都宮地方裁判所令和3年12月9日判決の懲役8年など重い刑が科せられている事例もありますが、この事例は飲酒運転による危険運転致死罪の事例のため重い判決になっていて、検察官の求刑よりは1年低い判決となっています。

遺族への損害賠償があることや、その見込みがあることは、量刑上有利な事情として考慮されるといって良いと思われます。

その他(既に社会的制裁を受けている)

上記の他に加害者の罪を軽くする事情としては、

  • 解雇・破産
  • 退学
  • 離婚
  • マスコミによる批判

といった「既に社会的制裁を受けているかどうか」という点も裁判例上考慮されやすい事情と言えます。

被害者が若いと加害者の刑期は長くなる?

実は、量刑を重くする事情に、被害者側の事情が含まれることはあまり多くありません。

これは、危険運転致死罪の中程度の基準(概ね懲役6年~9年)に、既に被害者側の処罰感情が含まれているからだと考えられます。

危険運転により突然命が奪われれば、加害者に対して大きな処罰感情を持つのは当たり前です。裁判所もそれを踏まえたうえでなお、危険運転致死の基準を定めていると思われますから、もちろん判旨の中には被害者の無念や遺族の怒りと言った言葉は数多く出てきますが、それが決定的な量刑を重くする事情になっているような印象はありません。

なお、小杉法律事務所では被害者参加制度を積極的に利用し、検察官の求刑どおりの判決を多く獲得しています(被害者参加制度の詳細はこちらのページ)。

被害者参加制度を利用して、心情意見や論告意見を述べることによって、重い量刑判断をさせるという方策はありますが、ここでは令和3年10月以降の裁判例の一般的な傾向を見ていきます。

前述のとおり、裁判例では、被害者側の事情を加害者に不利に考慮することは少ないのですが、唯一、被害者の年齢の若さは量刑上加害者に不利に考慮されていると評価できます。

令和3年10月から半年間の裁判例だけで見ても、千葉地方裁判所令和4年2月22日判決(被害者17歳)、さいたま地方裁判所令和3年12月22日判決(被害者が24歳)、大津地方裁判所令和3年12月21日判決(被害者9歳)、青森地方裁判所令和3年12月6日判決(被害者21歳)、鹿児島地方裁判所令和3年10月28日判決(被害者20歳)が加害者の量刑について、被害者の年齢を考慮しています。

遺族の処罰感情が強いと加害者の刑期は長くなる?

被害者遺族の処罰感情の峻烈さなどが量刑上の理由として刑事裁判で言及されることは多いです。

福岡地方裁判所小倉支部令和4年3月14日判決や青森地方裁判所令和3年12月6日判決では、いずれも遺族感情について言及したうえで、懲役9年の判決を下しています。

ただし、加害者の反省や謝罪等の態度とパラレルなところがあり、加害者の反省や謝罪などが無い事例において、加害者に不利な事情として考慮している節もあります。

すなわち、遺族の処罰感情が強くても、加害者が真摯に反省や謝罪をしているような事例では、他の類似事例と比較して、重い量刑判断が下されることは少なくなります。

被害者が加害者の車に同乗していた事例では刑期は短くなる?

加害者の車に同乗していた人が死亡事故被害に遭ったという事例では、加害者の刑期が短くなる傾向にあります。

ケースバイケースではありますが、特に飲酒後に運転したことにより事故を起こしたような場合で、同乗者が加害者の飲酒運転を知りながら同乗していたような事例では、その後事故を起こす危険までを引き受けているとは言えないながらも、一定の危険は引き受けていたと判断されているようです。

 

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第4条)

死亡事故の後に大量の水を飲んだりして飲酒運転の事実を隠蔽しようとしたら何罪になるか?

アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、12年以下の懲役に処する。」(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第4条)

アルコールや薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれのある状態で自動車を運転して死亡事故を起こした後に、飲酒運転や薬物の影響下における死亡事故であることを隠すために、交通事故後に更にアルコールや薬物を摂取して、事故後に飲酒・服用したかのように装ったり、大量の水を飲んで体内のアルコール濃度を減少させるような行為をした場合は、過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪として処罰されることになります。

死亡事故を起こした後に大量の水を飲んだりして飲酒運転の事実を隠蔽しようとした加害者の刑期はどうなるか?

過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪の法定刑は1か月以上12年以下の懲役刑とされています(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第4条,刑法第12条1項)。

「過失運転致死傷」アルコール等影響発覚免脱罪とされているように、第2・3条に定められている危険運転致死罪に比較すると、軽いように思われます。

死亡事故の際に「正常な運転が困難な状態」であったという証拠があるのであれば、重い危険運転致死罪で起訴されます。

この立証は検察官が行いますが、例えば、現行犯逮捕時の加害者のアルコール濃度を証拠化したり、防犯カメラやドライブレコーダー映像から蛇行運転の事実を証拠化したり、又は、運転する前に加害者が購入していたお酒の量や、居酒屋でのお酒の注文履歴などから、加害者の飲酒量の証拠を固めていき、その飲酒時間と死亡事故の発生時刻との兼ね合いで「正常な運転が困難な状態」であったと立証していくことになります。

証拠上、死亡事故の際に「正常な運転が困難な状態」であったとまではいえない事例では危険運転致死罪での立件はできず、従来は過失運転致死罪と道路交通法違反でのみ立件されることになっていました。

しかし、死亡事故の際に「正常な運転が困難な状態」であったとまではいえないにしても、死亡事故の後に、大量の水を飲むなどして飲酒運転の事実を隠そうとしたような事例において、過失運転致死罪と道路交通法違反のみの立件でよいのかという疑問が生じます。

こうした疑問から生まれたのが、この過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪です。

刑事裁判実務の取扱いでも加害者の刑期は厳し目に考えられていて、執行猶予は基本的には付かず、懲役の年数も危険運転致死罪とさほど変わりません。

広島地方裁判所平成29年2月9日判決では、「危険運転致死の事案における量刑傾向が一応の参考になる。」とされています。

後述するように、過失運転致死罪の事例では執行猶予が付くことが多いことを考えると、裁判所は、罪を犯した後にその罪と向き合わないばかりかそれを軽くするために小細工をすることが強い非難に値すると評価していることが分かります。

また、危険運転致死罪で見たような、量刑を軽くする加害者側の事情(謝罪が見られること、任意保険による相応の賠償が見込まれること、累犯前科がないこと等)も考慮には入れられますが、あまり重くは見られていないようです。

札幌地方裁判所小樽支部平成28年9月28日判決は、「被告人は,安易に飲酒運転をして本件事故を起こし被害者を死亡させ,その将来の可能性を断ってしまったことを深く後悔し,謝罪文を何通も作成するなどしていること,被告人は対人賠償無制限の任意保険に加入しており,被害者の遺族に対して相当の賠償がされると見込まれること,被告人には前科・前歴はないことなどの酌むべき事情を考慮したとしても,主文の刑に処するのが相当と判断」としています(懲役5年)。

静岡地方裁判所平成30年7月17日判決は、「被告人の刑事責任は非常に重く,被告人が事実を認めて反省と謝罪の態度を示していること,本件車両には対人賠償無制限の任意保険が付されており,被害者遺族に対して相応の被害賠償が見込まれること,被告人には罰金前科以外の前科はなく20歳と若年であること,被告人の内妻と父親が当公判廷に出廷し,今後の監督を約束していることなどといった被告人のために酌むべき事情を最大限考慮しても,主文程度の刑はやむを得ないと判断したものである。」としています(懲役6年)。

さいたま地方裁判所平成31年3月25日判決は、「被告人が当公判廷で反省の言葉を述べ,被告人の母が社会復帰後の監督を約していること,被告人は対人賠償無制限の任意保険に加入しており,各被害者の遺族に対して相当の賠償がされることが見込まれることなどの事情を踏まえても,主文の刑に処するのが相当であると判断」としています(懲役7年)。

謝罪・任意保険による賠償・前科が無いといった加害者に有利な事情があったとしても懲役5年以上の実刑判決が出される傾向にあるといってよいでしょう。

過失運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)

交通事故過失割合

過失運転致死罪の法定刑はどうなっているか?

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)

過失運転致死罪の法定刑は懲役・禁錮・罰金の3パターンがあり、具体的には①懲役1か月~7年、②禁錮1か月~7年、③罰金1万円~100万円のいずれかとされています(刑法第12条1項,13条1項,15条本文参照)。

犯罪は、わざと行う「故意犯」と、うっかり行ってしまった「過失犯」に分かれますが、わざと行う故意犯の方が悪質性が高いとされています。

危険運転致死罪というのは飲酒運転の事実などを分かった上で起こした犯罪ですので故意犯とされていて、法定刑も懲役1年~20年など重く規定されていますが、過失運転致死罪はうっかり行ってしまった過失犯とされていますので、法定刑が低く設定されています。

危険運転致死罪と比べると、法規範の違反の程度が小さいこともあり、法定刑も低めに設定されています。もちろん、必要な注意を怠って人を死傷させてしまっている以上、非難はされなければなりませんが、法律上の立付けも、後述の実務上の取り扱いも、危険運転致死罪に比べると基準が低めに設定されています。

過失運転致死罪では懲役刑・禁錮刑・罰金刑のどれが選択されるか?

過失運転致死罪の事例では、検察官が、①懲役刑・②禁錮刑・③罰金刑のいずれかを選択することになります。

③罰金刑は国に罰金を納めるもので分かりやすいと思いますが、①懲役刑と②禁錮刑の違いというのは、刑事施設での拘留中に刑務作業を行う義務があるかどうかです。

懲役刑では刑務作業を行う必要がありますが、禁錮刑では刑務作業を行う必要はありません。

過失運転致死罪の事例では、うっかり行ってしまった「過失犯」ということで、加害者の悪質性が故意犯に比べて低いとされていますので、①懲役刑が選択されることはあまりありません。

従いまして、過失運転致死罪の事例では、②禁錮刑か③罰金刑が選択される可能性が高いということになります。

拘禁刑の創設(懲役刑と禁錮刑は廃止されます)

なお、話は変わりますが、令和4年6月13日参議院本会議で改正刑法が可決・成立となり、令和7年(2025年)からは「拘禁刑」というものが創設されます。

これは「受刑者の高齢化」という社会情勢にかんがみた刑法改正で、受刑者に応じた刑務作業や再犯防止教育を実施させようとするものです。

これにより懲役刑・禁錮刑という区別は令和7年(2025年)に廃止され、「拘禁刑」に一本化されます。

従いまして、令和7年(2025年)以降は、過失運転致死罪の法定刑も、①拘禁刑か②罰金刑かの2択に変更されることになると思われます。

過失運転致死罪では悪質性が低い方が損?

禁錮刑の場合:執行猶予付きやすい

執行猶予とは、定められた期間内に刑事事件を起こさなければ、下された刑の執行を免れるというものです(刑法第25条以下)。

これは、加害者の犯情をはじめとした具体的な事情を考慮した上で、社会内で更生の機会を与えるべきと裁判所が判断した場合に付くものです。

過失運転致死罪の事例で禁錮刑が選択された場合には、執行猶予が付かないことは珍しいといってよいくらい、執行猶予が付いれている事例が多いです。

比較的新しい裁判例でみると、津地方裁判所令和4年4月6日判決では、過失運転致死罪の被告人について、禁錮1年6か月・執行猶予3年の刑が言い渡されています。

その量刑の理由の中で、「被告人に対しては、主文の刑に処してその刑事責任を明確にした上で、社会内での更生の機会を与えつつ、十全たる慰謝の措置に努めさせるのが相当と考えて、執行猶予を付すこととする。」と述べており、やはり裁判所は、過失運転致死の被告に対しては、社会内での更生の機会を与えることを重要視していることが分かります。

基本的には、禁錮(懲役×)1年~3年の間で判断され、執行猶予3年~5年が付くという刑期の相場が形成されています。

おそらく拘禁刑に変更された後も、この傾向が続くのではないかと思われます。

なお、小杉法律事務所では、過失運転致死罪の刑事裁判において、被害者参加をすることにより実刑判決を得た事例が複数ございます。

※こちらのページにて小杉法律事務所の死亡事故の解決実績の一部を紹介しています

罰金刑の場合:執行猶予付きにくい

禁錮刑と罰金刑とでは、禁錮刑の方が重い刑罰であるとされています(刑法第10条1項本文・9条)。

加害者に禁錮刑を科すには、必ず刑事裁判にて判決を下さないといけませんが、100万円以下の罰金刑を科す場合には、簡易裁判所による略式手続でよいとされています(刑事訴訟法第461条以下)。

ですので、被害者側にも落ち度があるといったような事例では、検察官が起訴をせずに、略式手続による罰金刑が選択されることがあります。

過失運転致死罪で悪質な事例は刑事裁判が開かれて禁錮刑が科せられやすい、悪質さの低い事例では略式手続によって罰金刑が科せられやすいという傾向にあるのです。

ところが、罰金刑の場合には、執行猶予が付けられることが少なくなっています。

従いまして、やや変に思われるかもしれませんが、過失運転致死罪で悪質な事例は執行猶予付きの禁錮刑、悪質さの低い事例は執行猶予のない罰金刑ということになり、判決後何も悪さをしないのであれば、悪質さの低い事例の方が加害者に損という結果となります。

ただし、小杉法律事務所の解決実績を紹介したとおり、悪質性の高い過失運転致死罪では実刑(=執行猶予が付かないこと)もあり得ますし、悪質性が低い過失運転致死罪では起訴猶予処分(=不起訴処分)となることもありますので、一概に悪質性の低い方が損とも評価できません。

加害者にどんな事情があると刑期が長くなる?

加害者に下記のような事情があると、刑期が長くなる傾向にあります。

  • 過失が大きい
  • 同種の前科前歴がある
  • 職業運転手

上記に関する令和3年以降の比較的新しい裁判例を見ていきましょう。

過失が大きい

過失運転致死罪で、加害者の量刑の判断に最も大きな影響を与えるのは、やはり加害者の過失の大きさです。

危険運転致死罪のように、条文で構成要件が類型化・具体化され、判例で基準が細かく区分けされている場合と異なり、過失運転致死罪の適用の範囲は、疲労困憊で一瞬眠ってしまったという場合から、スマホの画面に気を取られて前を全く見ておらず、赤信号を無視した、といった場合までを含みます。

ですので、危険運転致死罪と比較すると加害者が死亡事故を起こす前の状況や、交通事故の過失割合などが重視されている傾向にあります。

そもそも危険運転致死罪は条文の要件を満たす時点で、故意犯に該当するとされますので、死亡事故を起こす前の状況等は非難の度合いにさほど影響を与えないという判断がされているのだと思います。

神戸地方裁判所尼崎支部令和3年11月22日判決では、前科前歴なし・妻が監督を誓っている・被害者もシートベルトを着用していなかったなど加害者に有利な事情がありましたが、スマートフォンで電話をしていて赤信号を無視、スピード違反をしていたなど加害者の過失の大きさが考慮され、禁錮3年半の実刑判決となっています。

大津地方裁判所令和3年11月18日判決でも、加害者が自身に不利な事実も素直に認めて反省と謝罪をしていた・任意保険により損害賠償がされる見込みといった加害者に有利な事情がありましたが、スマートフォンの画面を見ながら運転していたという過失の大きさが考慮され、禁錮2年の実刑判決となっています。

同種の前科前歴がある

過去にも交通事故や死亡事故を起こしていたという事例では、加害者の刑期が長くなる傾向にあります。

最近の裁判例で見ますと、福岡地方裁判所小倉支部令和3年6月25日判決では、加害者に前科はありませんでしたが、以前に4件の交通違反歴があったことを考慮し、禁錮3年・執行猶予5年という判決が出されています。

禁錮3年・執行猶予5年というのは、執行猶予付判決としては最も重い判決なのですが、交通違反歴にとどまらず同種前科があったという事例だとしたら、間違いなく実刑判決になっていたと思われます。

職業運転手

危険運転致死罪と同様に、交通ルールを遵守すべき職業にあるにもかかわらず、交通ルールに違反して死亡事故を起こしてしまったという事例では、刑が重く判断される傾向にあります。

最近の裁判例ですと、津地方裁判所令和4年4月6日判決、神戸地方裁判所尼崎支部令和3年11月22日判決、大津地方裁判所令和3年11月18日判決が、加害者が職業運転手であったことを量刑を重くする事情として取り上げています。

加害者にどんな事情があると執行猶予が付きやすくなる?

加害者に下記のような事情があると、執行猶予が付きやすくなる傾向にあります。

  • 前科が無い
  • 反省・謝罪がある
  • 支援者・監督者がいる
  • 遺族への損害賠償

上記に関する令和3年以降の比較的新しい裁判例を見ていきましょう。

前科が無い

脇見運転により被害者2名を死亡させた交通事故加害者について、津地方裁判所令和4年4月6日判決では、前科が無いこと等を考慮して、禁錮1年半・執行猶予3年の判決を下しています。

また、同じく脇見運転による死亡事故の加害者について、福岡地方裁判所小倉支部令和3年8月31日判決では、前科が無いこと等を考慮して、禁錮1年4か月・執行猶予3年の判決を下しています。

反省・謝罪がある

横浜地方裁判所令和4年2月24日判決では、加害者が被害者遺族への対応を尽くす考えを持っていることを指摘して、禁錮1年・執行猶予3年の判決を下しています。

また、福岡地方裁判所令和3年12月16日判決では、速度超過の運転による加害者について、捜査段階から自身の過失を認めて反省し、また、免許も返納して二度と運転しない旨を誓っていることを考慮し、禁錮1年8か月・執行猶予4年の判決を下しています。

支援者・監督者がいる

脇見運転により被害者2名を死亡させた交通事故加害者について、津地方裁判所令和4年4月6日判決では、妻が加害者を今後監督していくことを誓っていること等を考慮して、禁錮1年半・執行猶予3年の判決を下しています。

また、同じく脇見運転による死亡事故の加害者について、福岡地方裁判所小倉支部令和3年8月31日判決でも、妻が加害者を今後監督していくことを誓っていること等を考慮して、禁錮1年4か月・執行猶予3年の判決を下しています。

遺族への損害賠償

福岡地方裁判所令和3年12月16日判決では、速度超過の運転による加害者について、任意保険による損害賠償が見込まれる点に言及して、禁錮1年8か月・執行猶予4年の判決を下しています(その他複数の執行猶予判決あり。)。

被害者が複数だと実刑判決になりやすい?

基本的に、被害者側の事情は、量刑を重くする事情としては考慮されていないことが多いです。

というのも、危険運転致死罪のパートでも述べましたが、交通事故で突然命が奪われたのですから、被害者が無念がり、遺族が怒りを覚えるのは当たり前です。ですので、基準自体に既に被害者の無念や遺族の怒り等が含まれているのだと思います。

その中でも、量刑を重くする事情として挙げられるのは、被害者が複数名存在することです。

大津地方裁判所令和3年11月18日判決では、被害者が死者2名・負傷者3名であることが考慮され、執行猶予が付きませんでした(禁錮2年の実刑判決)。

他方で、津地方裁判所令和4年4月6日判決では、被害者が死者2名の事例について、禁錮1年半・執行猶予3年の判決が出されています。

従いまして、裁判例の傾向としては、被害者が複数名存在することは、量刑を重くする事情としては考慮されるものの、必ず実刑判決になるというわけではないと評価できます。

なお、小杉法律事務所の解決実績のページでは、被害者が死者2名の死亡事故事例において、刑事裁判に被害者参加して禁錮3年半の実刑判決を得た事例を紹介しています(福岡地方裁判所久留米支部)。

被害者が若いと実刑判決になりやすい?

危険運転致死罪と同様、被害者が若い事例ですと、失われた命の長さが考慮されて、刑が重くなる傾向がみてとれます。

神戸地方裁判所尼崎支部令和3年11月22日判決では、加害者が反省の弁を述べている・被害者にもシートベルト非装着の落ち度がある・加害者の妻が監督を誓っている・加害者に前科前歴がない等の加害者に有利な事情が多くあったにもかかわらず、被害者が22歳と若年者であったこと等が考慮されて、禁錮3年半の実刑判決が下されています。

他の裁判例を見る限り、被害者が若いと必ず実刑判決になるというわけではありませんが、被害者の若さは加害者の刑期の判断の考慮要素とされているとみてよいでしょう。

被害者にも過失があると執行猶予がつきやすい?

上で見たように、加害者の過失の大きさが量刑上加害者に不利に考慮されますが、逆に、被害者の過失の大きさは量刑上加害者に有利に考慮されています。

この点は、危険運転致死罪と比較すると、圧倒的に自動車運転過失致死罪の方が、被害者の過失の大きさを考慮している裁判例が多いです。

横浜地方裁判所令和4年2月24日判決では、被害者が歩行者の信号が赤に変わった直後に横断を開始した可能性があることが考慮して、禁錮1年・執行猶予3年の判決を下しています。

福岡地方裁判所令和3年12月16日判決では、「もっとも,本件事故の発生には,夜間の交通頻繁な幹線道路を自転車で横断していたという被害者の行為も介在していた。」として、被害者の過失を考慮に入れ、前科を有する加害者に対して、禁錮1年8か月・執行猶予4年の判決を下しています。

以上のように、被害者側にも過失があると、執行猶予が付きやすい傾向にあると評価できます。

ただし、例えば大津地方裁判所令和3年11月18日判決では、「本件では,被害車両の側にも,路側帯から車幅の右側半分程度をはみ出した状態で停車していた点やそうなるに至った経緯等につき相当の落ち度がある」として被害者側の過失にも言及していますが、結果としては禁錮2年の実刑判決となっており、被害者に過失があると必ず執行猶予が付くというわけでもありません。

また、真実は被害者に過失など無かったにもかかわらず、執行猶予を付けてほしいがために、被害者が悪かったなどと根拠のない主張をすると、かえって反省や謝罪が無いとして、実刑判決の確率を上げることになるでしょう。

被害者遺族に厳しい処罰感情がないと執行猶予がつきやすい?

ほとんどの事例では、被害者遺族は厳しい処罰感情を持っていると思いますが、過失運転致死罪の場合、被害者が真摯に反省の態度を示したり、加害者側の過失が小さかったりするような場合に、被害者遺族が厳しい処罰感情を持たないこともあります。

佐賀地方裁判所令和3年5月18日判決では、介護施設利用者の送迎を行っていた加害者が、多忙な業務の中で疲労が重なり、交通事故を起こしてしまったという事例で、死亡した被害者の遺族が1名を除いて処罰を望んでいないこと、被告人が交通事故直後に救命活動を行うなど真摯な態度を見せたことなどが考慮され、執行猶予付きの判決となりました。

なお、刑事裁判が始まる前の捜査実務において、警察官や検察官が遺族から事情聴取を行うことになっています、この事情聴取の際に加害者への処罰感情というのを必ず聞かれます。

その際に「処罰感情はない」と供述すると、そもそも起訴がなされなかったり(起訴猶予処分=不起訴処分)、略式手続による罰金刑となることも多くなっています。

弁護士小杉晴洋のコメント:被害者参加制度の利用を

ここまで見てきたように、自動車による交通事故で人が死亡した場合、加害者は、危険運転致死罪か過失運転致死罪のどちらかによって処罰されることが多いです。

危険運転致死罪の場合は懲役6年~9年、過失運転致死罪の場合は禁錮1年~3年+執行猶予3年~5年という最近の裁判例の傾向を見て取れます。

人の命を奪ったのに、刑期が短すぎると思いませんか?

ですが、裁判所の判断にこうした傾向があるのは事実です。

また、非常に高い割合で、加害者の任意保険から賠償がされたか(される見込みがあるか)どうかが、量刑判断に含まれることも事実です。

量刑を軽くする事情として任意保険による賠償がされる見込みがあることが考慮されたにもかかわらず、その後の示談交渉で、適切な賠償金が得られなかった、というような事態は絶対に避けなければなりません。

小杉法律事務所は死亡事故被害を専門に取り扱う事務所として、被害者参加をはじめ積極的に刑事手続にも参加し、ほとんどの解決事例において、検察官の求刑どおりの判決を得ています。

また、過失運転致死罪において、実刑判決を得た解決事例も複数存在します。

そして、刑事裁判への被害者参加にて、被害者本人の無念さ・遺族の悲しみ・加害者の運転行為の悪質性を暴き出し、その結果を民事の損害賠償請求に活かし、適切な賠償金を獲得できるように尽力しています。

ご家族が交通事故によってお亡くなりになられてしまったという方については、無料の法律相談を実施しておりますので、お問い合わせ頂ければと思います。

刑事手続や民事の損害賠償請求の両面について、アドバイスをさせていただきます。

死亡事故の無料法律相談の流れはこちらのページをご覧ください。

刑事裁判への被害者参加の詳細はこちらのページをご覧ください。

この記事の執筆者

小杉 晴洋
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数1000件超。

経歴
小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身・福岡市在住。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(当時。現「神奈川県弁護士会」)に登録後(損害賠償研究会所属)、福岡県弁護士会に登録換え(交通事故委員会所属)。

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