死亡事故コラム

コラム

死亡事故損害賠償請求訴訟における控訴|弁護士法人小杉法律事務所

2023.12.26

死亡事故の場合、死亡逸失利益や死亡慰謝料など損害賠償額が数千万円~数億の単位となり、賠償金が高額となります。

そうすると、その金額の大きさゆえに、示談解決の確率は、他の交通事故よりも少なく、民事裁判(損害賠償請求訴訟)へと移行しがちです。

そして、民事裁判を提起したからとってすぐに解決するわけではなく、被害者遺族側が納得できないような判決が下されることもありますし、逆に、死亡事故加害者側(加害者本人や保険会社など)が下された判決に納得しないというケースもあります。

交通死亡事故の発生から解決までの流れの解説はこちらのページをご覧ください。

このページでは、第1審の判決に不服がある場合、すなわち「控訴」の手続について弁護士小杉が解説をしていきます。

 

控訴とは

控訴とは、自己に不利益な判決を受けた当事者が、第一審の裁判所(死亡事故の場合、地方裁判所となることがほとんどです。)の出した判決の確定前に、上級裁判所(第一審の地方裁判所を管轄する高等裁判所)に対し、自己の有利にその裁判の取消し、変更を求める不服申立ての方法のことをいいます。

控訴では、事実面・法律面の両面から、不服の主張の当否を審理判断し、第一審とともに事実審を構成します。

控訴した当事者を控訴人と呼び、控訴された当事者を被控訴人と呼びます。

 

控訴の手続(控訴状の提出と14日の期間制限)

控訴は、判決を出した一審の裁判所に控訴状を提出して行います(民事訴訟法第286条1項)。

控訴状には、当事者及び法定代理人、第一審判決の表示及びその判決に対して控訴をする旨を記載しなければなりません(民事訴訟法286条2項)。

また、第一審の判決書を受け取った日から14日以内に控訴をしなければなりません(民事訴訟法第285条)。

なお、控訴状提出の際の印紙代は、訴状提出の際の印紙代の1.5倍の基準となっています。

 

控訴審における主張(控訴状と控訴理由書)

控訴状の提出は、第一審の判決書を受け取った日から14日以内という期間制限があることから、一審判決に不服がある旨の簡単な記載しかなされないことが多いです(詳細な記載をしても大丈夫です(民事訴訟規則第175条参照))。

第一審の判決に対する不服内容の詳細な主張は、通常、控訴理由書において行います。

なお、最高裁に対して行う上告においては、上告理由書の提出が義務とされていますが、控訴理由書の提出は任意とされています。

控訴理由書は控訴から50日以内に行うこととされていますが(民事訴訟規則第182条)、控訴状の提出と異なり、この期間を過ぎてしまったからといって提出が認められなくなることはありません。

ただし、控訴理由書の提出が遅れると、裁判所の心証は悪くなりますので、期限内に提出するようにしましょう。

控訴理由書には、第一審判決の取消し又は変更を求める事由(控訴理由)の具体的な記載がなされることが望ましいとされています(民事訴訟規則第182条参照)。

控訴状及び控訴理由書を提出すると、その後に被控訴人(控訴された当事者)から控訴状及び控訴理由書に対する控訴答弁書が提出されることになります。

第一審でいう、訴状と答弁書のやりとのようなものです。

ただし、第一審と異なり、その後、何通も準備書面のラリーが続くことはすくなく、多くの裁判では1回の期日のみで終結することが多いです。

 

控訴審の審理と和解

死亡事故などの損害賠償請求訴訟において多く見られるのは、第1回の期日で終結し、その後3名の裁判官の内の裁判長以外の裁判官1名が主任となって、和解できるかどうかの協議を行うという流れです。

控訴審の裁判官3名は、第1回期日の前に打合せを行っており、どのような判決を出すかの見通しを立てています。

その判決見通しを元に、控訴人及び被控訴人に対して和解の話を勧めてきます。

第1回期日が法廷において行われた後(5分以内に終わることが多いです。)、控訴人、被控訴人が別々に法廷外の部屋に呼ばれ、担当裁判官と和解の話をします。

この担当裁判官との和解の話は1時間程度かかることが多いです。

期日前に裁判所から電話があるなどしたケースなどでは、その日のうちに和解成立となることもありますが、通常は、その日の話し合いを双方持ち帰り、和解できるかどうかの検討をした上で、後日和解成立又は不成立が決まるという流れになります。

和解不成立となった場合は、判決となります。

なお、事前に高等裁判所より、和解の可能性を探るアンケートがとられるのですが、そのアンケートで当事者のいずれかが和解拒否の態度を明確にしている場合は、和解の協議が一切行われず判決に進むこともあります。

 

第一審判決の結論が変わる確率

具体的な確率はわかりませんが、交通部の裁判官は、交通事故の損害賠償請求訴訟の場合、他の訴訟類型と比較すると、控訴審において結論が変わることが多いという話をしていました。

弁護士小杉の経験では、控訴審の判決又は和解で第一審判決の結論が変わる確率は50%以上となっています(ほとんどの事例で第一審よりも増額)。

 

附帯控訴

附帯控訴とは、被控訴人が、控訴人の控訴をきっかけとして、第一審判決を自己のためにも有利に取り消し又は変更するよう主張して、その当否の審判を求めることをいいます。

第一審判決が出た時点において、100%満足のいく結果ではなかったが、紛争に区切りをつけようと控訴しないでいたところ、相手方から控訴されたという場合に、「そっちがするなら、こっちもするよ」というケースで附帯控訴が用いられます

控訴は当事者双方がすることができるのですが、相手が控訴するならこちらも控訴するというスタンスの場合、例えば、相手が控訴期間ギリギリの14日時点で控訴をしてきた場合、こちら側の控訴が間に合わないことになってしまいます。

また、相手のみが控訴した場合ですと、高等裁判所は、第一審判決を控訴人に不利に変更することができませんので(民事訴訟法第304条)、控訴をされた相手方としては高等裁判所において第一審以上の結果を得ることはできません。

そこで、このような場合に附帯控訴が用いられるのです。

附帯控訴は口頭弁論の終結前にすれば良いので(民事訴訟法第293条1項)、第一審の判決書が届いてから14日を経過していたとしてもすることができます。

 

附帯控訴は控訴取下げに注意

附帯控訴は控訴が取り下げられてしまうと、審理が継続できなくなるので注意が必要です。

具体的には、相手が控訴してきたので、こちらも附帯控訴を行ったという事例に置いて、第2審の裁判官たちが、控訴には理由がないが、附帯控訴の方が理由があると判断したとします。

そうすると、第2審の判決は附帯控訴を行った側に有利に変更されることになります(控訴を行った側には不利に変更されることになります。)。

和解協議の際などにこうした見立てが裁判官より控訴を行った側に伝えられると、控訴を行った側は「このままだと不利な判決が出されてしまう」ということで、控訴の取下げをしてくることがあるのです。

附帯控訴というのは、相手の控訴が前提となった制度なので、相手が控訴を取り下げてしまうと、附帯控訴もなかったことにされてしまいます

要は、そのまま判決を得ていれば、第1審よりも有利な判決が出たのに、控訴が取り下げられたことによって、有利な判決を受けることなく損害賠償請求訴訟が終了していしまいます(第1審の判決内容で確定)。

ですので、控訴をしたとすれば第1審の判決が自己に有利に変更される可能性があるのであれば、附帯控訴ではなく、正式な「控訴」をするようにしましょう。

こちら側も控訴をしていれば、相手が控訴を取り下げても、第2審の審理が終わることはありません。

このあたりは高度な駆け引きや専門的知識を要する場面ですので、死亡事故被害専門の弁護士に相談されることをおすすめします。

 

控訴審(第二審)判決に対する不服ー上告・上告受理申立ー

高等裁判所の判決に対しては、上告ないし上告受理申立てを行うことができます。

上告・上告受理申立の詳細については、こちらをご覧ください。

 

死亡事故損害賠償請求訴訟における控訴の利用について弁護士のまとめ

弁護士法人小杉法律事務所では、死亡事故の損害賠償請求訴訟における控訴審からの受任も受け付けております。

控訴というのは、こちら側が控訴すべき事例、相手方からの控訴が予想される事例、附帯控訴の利用方法など、適切な見立てと戦略が必要となる場面です。

第一審の判決に不服のあるご遺族の方や第一審が終盤に差し掛かっていて不利な判決が予想されるといった方、死亡事故の加害者サイドからの控訴が予想されるといった方については、セカンドオピニオンも含めて無料で法律相談を実施しておりますので、まずはお問い合わせください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。